『拐〜カドワカシ〜』イントロダクション


学園廊下
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女学生1: 「……ねぇ、聞いた?」
女学生2: 「ああ、聞いた聞いた。
矢澤さんのお父様のことでしょ?
アレって本当?」
女学生3: 「賄賂なんでしょう?」
女学生1: 「それだけじゃなくて、
京都の芸子さんを愛人にしていたとか……」
女学生2: 「ええ〜? 私は違うように聞いていたよ……」

学園内が騒がしい。
ほとんどが、矢澤の父の収賄疑惑のことだ。

矢澤の父親は代議士をしていて、その為政敵に狙われることも少なくない。
しかし、今回の事が噂の域を出ないのにもかかわらず騒がれるのには、それに続いて出た愛人スキャンダルのせいだった。

女学生1: 「……折角の夏休み前で、こんな噂が流れるなんてねぇ」
女学生2: 「矢澤さん、今年の夏はハワイの別荘に行かれるはずだったんでしょ?
家族みんなで」
女学生3: 「行けないわよねぇ〜……愛人騒ぎが出ているようじゃあ」

……それにしても、矢澤の身辺の事を学生達がよく知っている。
俺は呆れたように噂している学生を見て、こほんと咳払いをした。
学生は俺の顔を見ると、蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。

主人公: 「全く……」


学園教室
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教室に入ると、矢澤が項垂れて席に座っていた。
……俺はそんな矢澤に近づいて、それとなく声をかける。

主人公: 「……気を落とすなよ、矢澤」
瑞 恵: 「先生……」

暗く歪んだ表情で、矢澤は俺を見つめる。
沈んだ表情でも美しい……この顔が歪む所を想像するだけで、震えが来そうだ。

しかし、俺の考えている事を顔に出すわけにはいかない。
必死に教師の顔を作り微笑みかける。

主人公: 「人の噂も、七十五日と言うじゃないか。頑張れ」
瑞 恵: 「……はい」

力のない微笑みを浮かべて、矢澤は俺を一瞬見たが、すぐに俯いてしまう。
これは、随分落ち込んでいるな……そう思った時、誰かの視線を感じて振り返る。

朋 子: 「……」

蔵島だった。
蔵島は微笑みを浮かべ、俺に目配せをした。
……この噂は、お前がやったのか。蔵島……
蔵島は、俺達に背を向けて教室から出て行く。
俺は、その後を追った。


学園廊下

蔵島は、すたすたと廊下を歩いていく。
俺はそれを追うように、ついて歩く。
だんだん人気が少なくなってきた所で、ようやく蔵島は立ち止まった。

朋 子: 「計画は、順調に行っているわ……先生」
主人公: :「じゃあ、今回の学園内の噂は……お前が?」
朋 子: 「そう……正確に言うと、マスコミにちょっとしたスキャンダルの証拠を流したの……」

振り返ると、蔵島はまたあの微笑みを浮かべていた。
妖しくて、悲しい……不思議な微笑み。

朋 子: 「明日になれば、夏休みになるわ。
そうしたら、私の計画は実行される……先生、手伝って下さいね……」
主人公: 「ああ……でも、俺はどうすれば……」
朋 子: 「待っていればいいんです……先生は。私が呼び出すまで……待っていて。そうしたら、全てが始まるの」

蔵島は微笑みを浮かべて、俺にそう告げる。
俺は、背筋に冷たいものを感じながらも、先程の意気消沈した矢澤を思い出して、ぞくぞくする興奮がわき上がってくることを止められなかった。
夏休みに入れば……全てが、始まる。




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