『拐〜カドワカシ〜』イントロダクション


学園廊下

image今日も蔵島は、俺に抱かれに来るだろう。
……その時の事を考えるだけで、背筋にゾクゾクとした感覚が走る。

放課後の廊下には、部活を終えて帰り支度をした学生達ぽつりぽつりと歩いていた。
もうじき、この校内は静かになり……そして、悦楽の時がやってくる。

???: 「あ……先生」

突然かけられた声に、俺は振り返った。

瑞 恵: 「まだ、お帰りにならないんですか?」

……そこには、一人の学生が立っていた。
明るい笑顔を浮かべ、俺を見つめている。

主人公: 「矢澤……」
瑞 恵: 「あ……名前、覚えていてくださってたんですね」

いっそう、笑顔が愛らしくなった。

主人公: 「……授業を持った学生の名前は、なるべく覚えるようにしているよ」
瑞 恵: 「あは……先生も、大変ですね」

彼女の名は、矢澤瑞恵。
その名前を覚えるのは、簡単だった。

品行方正で成績も常に上位をキープしている、学園でも指折りの優等生。
職員の間で、話題に上る事も多い学生だ。

恵まれた容姿に、明るく裏表のない性格……
代議士の一人娘であるのにもかかわらず、それを鼻にかける事もない。
同性からも好かれるタイプで、自然と頼られる事も多いらしい。

かといって、取り巻きで自分の周りを固めたりするような事もなく、誰とでも分け隔て無く接しているようだ。
自分の取り巻きを引き連れて、派閥を作ったりするお嬢様が多いこの学園では、珍しいと言える。

主人公: 「矢澤もずいぶん遅いな。まだ帰らないのか?」
朋 子: 「役員会の仕事が、今終わったところなんです……」
「これで、やっと帰れます」

その結果、こうして学生会の役員としての苦労を背負う事なっているのだが……それを苦にした様子もない。

次の選挙では学生会長に推薦されて、その地位に就くのもほほ確実だろう。

主人公: 「そうか……気をつけて帰れよ」

何に、気をつけるんだ?
自分の口にしたセリフに、内心苦笑してしまった。

全寮制のこの学園で、帰り道に襲われるような事はあり得ない。
気をつけるとすれば……学園内にいる、俺のような変質者に捕まらないようするぐらいだ。

瑞 恵: 「はい……ありがとうございます」

そんな俺の心の内を知らず、矢澤は素直に礼を述べる。
人の善意を欠片も疑っていないその瞳が、俺を見つめていた。

瑞 恵: 「さようなら、先生」

まばゆい笑顔を見せて、彼女は立ち去る。
離れてゆくその姿を、俺はホッとしたような、残念なような思いで見つめていた。

俺とは、相容れない世界の住人……
明るく、清らかな……光の中にいるかのような、眩しい少女。
俺の手は、決して届かない……そんな自嘲めいた思いが、沸々と湧いてくる。

主人公: 「……矢澤瑞恵……か……」

俺は、頭を振って歩き出す。
蔵島との、暗い悦楽に向かって……




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